Royalty Pharma

Royalty Pharma (ロイヤリティファーマ)の将来性②ー米国議会予算局報告書から読み解く 前編ー

増加する製薬会社の研究開発費の特徴

では、製薬会社の研究開発費の傾向はどうかというと、今後も増加することが予想されます。それだけではなくその内容にも変化が見られます。この特徴を理解すると、Royalty Pharma の顧客となる製薬会社が、なぜ今後Royalty Pharma により多くの収益をもたらしてくれるかが理解できます。

製薬会社の研究開発費の特徴には、大きく分けて

①増加傾向である

②小規模の製薬会社と大手製薬会社で集中するポイントに差がある

③売上における研究開発費の占める割合の増加

の3つが挙げられます。

①製薬会社の研究開発費は増加傾向である

ワクチンで有名なファイザー社 (Pfizer) や、バンドエイドのジョンソンエンドジョンソン (Johnson & Johnson)、武田製薬 (Takeda)などの大手製薬会社の集まりにPhRMA (Pharmaceutical research and Manufactures of America) という団体があります。(大手製薬会社の集団と思って良いです。)

このPhRMAの2019年における研究開発費はアメリカ国内で約$83 Billion (約9兆1300億円:1ドル=110円)でした。

(引用:Research and Development in the Pharmaceutical Industry, p7)

これは大手製薬会社における研究開発費のデータですが、同じ傾向は小規模の製薬会社の研究開発費においてもみられます。

②小規模の製薬会社と大手製薬会社で集中するポイントに差がある

実は研究開発費といっても、小規模の製薬会社と大手製薬会社とでは研究開発費の投資先に大きな違いがあります。先ほど紹介した研究開発費の5つの種類と合わせて考えてみます。

大手製薬会社は②発展(臨床試験を行ったり、既存の薬の新しい用量や、他の疾患への適応の発見)、そして⑤安全確認(第4相試験:市場に出た薬が本当に安全か確認するための試験)に研究開発費を割きます。

それに対して、小規模の製薬会社(ベンチャー企業など)は①発見(新薬を発見し、研究するための費用)に資金を集中させる傾向があります。

(研究開発費の投資先:CBO資料を基に作成)

実は、第3相試験が行われている約3000の薬のうち、およそ70%以上は小規模の製薬会社(ベンチャー企業)によるもので、大手製薬会社の薬は20%程度を占めるだけというデータがあります。

大手製薬会社は資金があるため長期に渡る臨床試験を乗り切ることができますし、しかも今までに薬を販売してきた経験があるので、物流網も確保しています。

それに対して小規模の製薬会社(ベンチャー企業)においては職員の数も少なく、資金面や臨床試験の経験においても大手製薬会社にはかないません。その代わりに今までにない新薬を開発する研究に特化することでハイリスク、ハイリターンを狙っています。

これは、19世紀にイギリスの政治経済学者、David Ricardo氏が提唱して、”Comparative Advantage: 比較優位性” と呼ばれる考え方に当てはまります。

(Comparative Advantage:比較優位性については、気が向いたら別の記事で解説しようと思います。世界での自由貿易が推奨されている理由もこの comparative advantage が理由です。)

結果、小規模の製薬会社と大手製薬会社それぞれが、得意な分野に特化します。まず小規模の製薬会社が薬を開発し、その会社を大手製薬会社が買収することで、収益を伸ばすという構図が出来上がるのです。これはRoyalty Pharma が特許権を持つ片頭痛の薬、”Nurtec ODT” の例でも見ることができます。

Nurtec ODTという薬は、ベンチャー企業のBiohavenが開発しました。そしてRoyalty Pharma は Biohavenに資金提供したことをきっかけに、2020年8月にNurtec ODT のロイヤリティを手に入れています。その後、2022年5月に大手製薬会社のファイザー社 (Pfizer) はBiohavenを買収し、ファイザーの巨大な販売網を利用して、Nurtec ODTの販売を加速させることが予想されています。

この流れはRoyalty Pharma にとっては追い風です。小規模の製薬会社から買い取った特許権を持っているだけで、大手製薬会社がその薬の販売をどんどんと促進してくれるからです。

③売上における研究開発費の占める割合の増加

もう1つ大きな特徴として、薬の売上高自体の増加よりも、製薬の研究開発開発費はもっと早いペースで増加しているというのがあります。

(引用:Research and Development in the Pharmaceutical Industry, p5)

この図から分かる通り、売上高(net revenue) に占める製薬会社の研究開発費(一番上のPharmaceuticals)の比率は上昇傾向にあります。製薬業界においては、2000年初めごろはその比率が13%程度であったのに、2019年頃には25%以上にもなっています。通常、企業の研究開発費の売上高における比率というのは2~3%程度であるのが普通です。また、研究開発が大きな役割を担うソフトウェアや半導体業界 (Software, Semiconductors) においてすら、その比率は18%以下です。このグラフを見ると、製薬業界において研究開発費が勢いよく増加しており、業界全体として利益率を下げてきていることが分かります。

しかし、なぜこのような傾向がみられるのでしょうか?

その理由として考えられるのは

・まだ売上がほとんど出せない、小規模の製薬会社(ベンチャー企業)が新薬開発を担う機会が多くなってきた

・研究開発費に対する、最終的な見返りが大きい(ハイリスク、ハイリターン)ため、企業がより多くの費用を研究開発に振り分けるようになった

・科学の進歩により、新薬を開発する機会が増えた

などが考えられます。

新薬を開発するための費用がよりかかるということは、製薬業界においてよりRoyalty Pharma が必要な存在になることを意味します。さらに、新薬を開発する会社の多くが小規模の製薬会社(ベンチャー企業)で、資金が足りない財務状態であることを考えると、今後Royalty Pharma の出番はさらに多くなると予想されます。

次のページで研究開発費に影響する要素について解説します。

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あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。