どんな要素が研究開発費に影響するか
ここまでで、製薬における研究開発費にはどんなものがあるか、そして、研究開発費は増加傾向であることを示しました。
では、どんな要素が研究開発費に影響するのでしょうか?
これについては3つの要素が考えられます。
①将来期待できる売上高
②開発にかかる費用の予想
③政府の政策やプログラム
①将来期待できる売上高
新薬が将来どれくらいの売上をあげることができるかは、
1:薬の価格
2:どれだけの量の薬が売れるか
の2つで予想します。
これら2つの要素を想定する方法としては、新薬が治療する疾患に対して、既存の薬が、どの値段で、どれだけ売れたかというデータが参考になります。
②開発にかかる費用の予想
新薬を開発するのにどれだけの費用がかかるかも重要な要素の一つです。
この要素について理解すると、Royalty Pharma のビジネスモデルの優位性がはっきりとします!
さて、一般的には、新薬1つ開発するのに、平均して$ 1 billion~ 2 billion (約1400億円:1ドル=140円)ほどの費用がかかるといわれています。この費用には、市場に出回る新薬開発のための費用のみならず、今まで開発に失敗した薬の費用も含まれています。新薬開発というのは非常にハイリスクなビジネスであり、研究が途中で中止となったり、失敗に終わってしまうというのは日常茶飯事なのです。
そのため、開発にかかる費用には
・臨床研究前(動物実験段階)の費用
・承認された薬の、臨床試験にかかった費用
・開発のために保留された資金の機会費用(opportunity cost)
に加えて、
・失敗した研究にかかった費用
が含まれます。
ところで、新薬の開発には大きく分けて3つの特徴があります。
それは
・研究が長期に渡る
・リスクが非常に高い
・費用が非常にかかる
です。
研究が長期に渡る
新薬開発というのは長期に渡るプロセスです。臨床前試験(動物実験など)から始まり、3段階の臨床試験を経てようやく市場に出回ることを許されます。
臨床前試験の段階で、研究開発費の43%が使用され、およそ31か月(約2年半)かかると言われます。そして、その後の3段階の臨床試験では、約95か月(約8年)かかると言われます。つまり、始まってから終わるまで約10年半かかるといわれているのです。しかも、後になって新薬候補が使えないことが判明することがあります。10年経って初めて、今までの研究が水の泡であると分かることもあり得る世界なのです。
リスクが非常に高い
では、どれくらいの確率で成功、または失敗するのでしょうか?
以下のグラフをご覧ください。
まず、臨床試験に入る前に、数々の新薬候補が現れますが、その中でも100個の新薬が臨床試験にたどり着けたとします。すると、最終的に市場に出てくるのは、最初の100個のうち、たった12個だけなのです。
先程、新薬開発は小規模の製薬会社(ベンチャー企業)が積極的に行っていると記載しました。投資という観点で考えると、なるべく早い段階で(例えば臨床試験にたどり着いたばかりの新薬を持っている)製薬会社に投資をすれば、その薬が承認された時のリターンは大きくなります。しかし、88%の確率で失敗に終わる可能性があるのです。たとえ第3相試験に辿りついた薬だったとしても40%の確率で失敗に終わるのです。
つまりは、株価大化けを狙って、臨床試験を行っている製薬会社の株を事前に購入しても、第1相試験であれば88%の確率で、そして、たとえ第3相試験であっても40%の確率で無駄になってしまう可能性があるのです。
Royalty Pharma が現在保有しているアルツハイマー病の治療薬候補、”Gantenerumab”も同様です。失敗する可能性が非常に高いです。(個人的に、この薬は、過去のデータをみる限り失敗する可能性が高いと考えています。)
このことを、Royalty Pharma の経営陣は熟知しています。
2022年5月17日に行われた “Royalty Pharma Investor Day” のプレゼン資料をご覧ください。
2025の予想Adjusted Cash Receipts (ACR:修正売上高)の資料ですが、Gantenerumabは考慮しないとしています。ハイリスクと分かったうえで、当たった時のリターンを考えて投資しているのです。
では、Royalty Pharma が投資した研究段階の新薬は、どれくらいの確率でFDAの承認を受け、市場に出回ってきたのでしょうか?
次の資料をご覧ください。
新薬の数としては79%、投資金額の割合としては95%の確率で承認されたという驚きの数字です。通常であれば、最終段階の第3相試験の新薬でも40%程度しか承認されないのですが、Royalty Pharma の目利きにかかれば、その確率はこれほどまでに跳ね上がるのです。しかも、Royalty Pharma が手に入れるロイヤリティというのは、ビジネスとしてとても美味しい新薬を狙っています。
製薬会社に投資したいと考えた時に、製薬業界のおいしいところをだけを集めた会社がこのRoyalty Pharma だと思うのは私だけでしょうか?
費用が非常にかかる
また、臨床試験というのは非常にお金もかかります。
また、第1相試験、第2相試験、第3相試験と数を重ねるたびに、必要な資金も増えてきます。
さらに、失敗した新薬の研究費用 である$ 690 million が加わり、合計 $ 1065 million (約1490億円:1ドル=140円)が新薬1つの研究開発費としてかかります。
研究開発費のトレンド
過去10年間で、製薬業界の研究開発費は年率8.5%程度増加しています。
これは、開発される薬の種類や、臨床試験で試される薬の数が影響していると思われ、今後も増加する可能性があります。製薬会社の研究開発費増加、はRoyalty Pharma のビジネスモデルにとってはチャンス拡大を意味し、まさに追い風が吹いている状態といえそうです。
③政府の政策やプログラム
研究開発費の増大は、新薬のコスト増大につながります。それはつまり、薬の値段が上がることを意味し、医療費が増えることにつながります。政府としてはなるべく医療費を抑え、かつ、医学の進歩は促したいという思いがあります。
これについては次回の記事で解説しようと思います。
次のページはまとめです。