Royalty Pharma

Royalty Pharma (ロイヤリティファーマ)の将来性③ー米国議会予算局報告書から読み解く 後編ー

③研究開発と新薬の関係について

製薬会社における研究開発費が増加傾向であることは既に解説しました。では、研究開発費が増えることは、新しく市場に導入される新薬の数と関係があるのでしょうか?

市場に送り出される新薬の数

一年間に承認される新薬の数をグラフにしたものがこちらです。

(引用:Research and Development in the Pharmaceutical Industry, p6)

2010年から2019年にかけては、平均して約38の新薬が毎年承認されています。特に注目すべきは、2015年から2019年の間に承認された新薬の数は、2005から2009年までの間に承認された数の約2倍に増えているという点です。

研究開発費の増加は、有益な新薬の増加につながるか?

ここまでのデータによると、研究開発費と承認される新薬の数は両方とも増加傾向を示しています。ということは、より研究開発費を計上すれば、人類にとって有益な新薬が増えることを意味しているのでしょうか?

実は、この問いに答えるのは少し難しいです。

その理由については以下の通りです

研究開発費と承認される新薬の数の関係性は複雑である

まずは下の図をご覧ください。

(引用:Research and Development in the Pharmaceutical Industry, p6)

上の線グラフは大手製薬会社の研究開発費の推移を示しており、下の棒グラフは承認された新薬の数を表しています。

研究開発費と新薬数は両方とも増加傾向を示しています。

ただ注意しなければいけないのは、新薬を開発する為には投資をしてから約10年かかるという点です。(前回の記事で解説しています。)

Royalty Pharma (ロイヤリティファーマ)の将来性②ー米国議会予算局報告書から読み解く 前編ー *最終的な投資の決定は皆さんご自身の判断でお願いします。私は資格を持ったファイナンシャルアドバイザーではなく、あくまでも1人の素人投資...

1990年から2000年の間は、毎年承認される新薬の数は増えましたが、2000年から2010年までの間は毎年承認される新薬の数は横ばいでした。(その10年前の1990年から2000年にかけての研究開発費は増加したのにも関わらずです)

そのため、2010年当時、今後承認される新薬の数は横ばいか、減少することが予想されていました。

しかしその後、2012年から現在において毎年承認される新薬数は増加傾向をしめしています。(2008年から2014年の研究開発費はほぼ横ばいでした。)

何が言いたいかというと、研究開発費を増やしたからと言って、承認される新薬の数がそれに応じて増えるわけではないのです。

承認される新薬は、本当に革新的か?

承認される新薬が増えることと、革新的な新薬(今までなかった治療法)が増えることとはイコールではありません。

例えば、2019年に承認を受けた糖尿病治療薬にリベルサス(Rybelsus)というGLP-1製剤があります。(この薬は糖尿病治療薬として開発されましたが、日本の自由診療でダイエット目的で使用されることもあります。)

じつはこれ、もともとあった糖尿病治療薬、オゼンピックという注射薬と主成分は同じです。

違いとしては、今まで注射でしか投与できなかったセマグルチドという成分(GLP-1)が飲み薬で摂取できるようになったという点です。

ただ、作用機序は新薬のリベルサスも古いオゼンピックも同じですし、なにより効果を狙うのであれば古い薬のオゼンピックの方がより強力な作用を期待することができます。

個人的には、飲み薬で摂取できるようになった点は画期的ですが、(ダイエット目的で週に1回注射を打つのは、なかなかしんどいです)、ただ今までと全く違う、革新的な治療かと言われると違います。結局同じ成分を使っているだけなので。。。

リベルサス (Rybelsus) の一例を挙げましたが、他にも数々の糖尿病薬や花粉症の薬、頭痛薬、高血圧の薬など、新しい薬が承認されていますが、全部が革新的な新薬かというと、必ずしもそうではありません。

(GLP-1製剤。注射薬はオゼンピックではなくて、サクセンダです。サクセンダは体重減少目的で作られた注射薬で切れ味が良いですが、やっぱりリベルサスの方が飲むだけなので楽です。)

研究開発費が増えても、新薬が増えるわけではない

また前回の記事でも解説した通り、新薬が臨床試験を通過できる可能性はかなり低いです(約12%程度)。これは、新薬が承認される可能性が今後さらに低くなる可能性を示しています。

2016年に行われた研究によると、現代で約12%の新薬しか市場に到達しませんが、1980年代や1990年代は約20%の新薬が承認されていたというデータがあります。

過去の記事でも解説した通り、製薬の舞台は有機化学から分子生理学に移り変わっていて、これが新薬承認の可能性が低くなっている原因の一つと考えられます。そして今後もこの傾向は続くと考えられるでしょう。

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全ての研究開発費が新薬開発に使われるわけではない

製薬会社は全く新しい成分で薬を作るだけではなく、既存の薬を組み合わせることで新しい薬を開発することに研究開発費をかけることもあります。

その良い例として、Royalty Pharma が特許権を持つ “PT027” という研究開発中の喘息治療薬があります。この薬の主成分 albuterol(短時間作用型β2刺激薬)と budesonide (ステロイド)という成分自体は昔からあるものです。これを一緒にして、定量で使用できる吸入薬にしたものが、なんちゃって新薬 ”PT027”です。

新しい成分を開発したわけでは全くありませんが、こちらも新薬として今後承認されることが期待されています。

(第3臨床試験で良い結果が出ていて、2022年9月現在、FDAの承認待ちです。個人的にはほぼ間違いなく承認されると思ってます。Royalty Pharma は研究段階でこのPT027の特許権を取得していて、承認されれば新な収入源になることが期待されてます。)

研究開発費が増えること自体は、どの分野の薬が今後市場に導入されるか分からない

臨床試験の内容を調べることで、どの分野の薬が研究段階かを調べることはできますが、何せ市場までたどり着けるのはたった12%です。結局最終段階にならないと、どんな新薬が医療の未来を変えるか分からないのです。

Royalty Pharma が特許権を持つ ”Gantenerumab”というアルツハイマー病の治療薬候補もそうです。Roche社が長期に渡り研究開発を継続していますが、実際に承認されるかは全く分かりません。

次のページでどの分野の薬が売れているかについて解説です。

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あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。