Royalty Pharma

Royalty Pharma の新な試みーMerckとのコラボについてー前編

Merck との案件まとめ

2022年10月12日に Royalty Pharma のホームページで通知がありました。Royalty Pharma が Merck が開発中の新薬 “MK-8189” の研究費を支援する運びとなったのです。

引用元:Royalty Pharma

MK-8189 は統合失調症と呼ばれる精神疾患の新薬候補で、現在第2b相臨床試験を行っている最中です。

詳細としては、2022年の第4四半期に Royalty Pharma が Merck に対して$50 millionを支援することが既に確定しています。そしてMK-8189が第2b相臨床試験で良好な結果を示し第3相臨床試験に突入すると決まった際に、追加で $375 million を援助するかどうかをRoyalty Pharma が判断するという内容です。

この案件で注目すべき点は2つあり

  1. Royalty Pharma が第2相臨床試験の新薬に投資したこと
  2. 支援をした相手が大手製薬会社の Merck であること

が非常に重要です。

これに対して投資アナリスト達は非常に敏感に反応し、第3四半期のカンファレンスコールではこの案件に関して様々な質問が投げかけられました。

Royalty Pharma が第2相臨床試験の新薬に投資したこと

まず1つ目のポイントです。Royalty Pharma が第2相臨床試験の新薬に投資したことがなぜ重要かというと、Royalty Pharma が今までにないリスクを取ったことを意味するからです。

もともとRoyalty Pharma は非常に安定した業績を残しており、リスクを抑えつつ新薬開発のおいしいところを取るビジネスモデルを展開してきました。

製薬業界全体でみると、一般的に新薬開発は88%の確立で失敗すると言われています。

(新薬の失敗率:CBO資料を基に作成)

しかしRoyalty Pharma は第3臨床試験にたどり着いた新薬に投資先を絞ることで失敗するリスクを抑え、安定した業績を出してきました。

実際 Royalty Pharma が投資した数の79%、投資金額の割合としては95%の確率で新薬が承認されています。通常であれば最終段階の第3相試験の新薬でも40%程度しか承認されないのですが、Royalty Pharma の目利きにかかれば確率はこれほどまでに跳ね上がるのです。

引用元:Royalty Pharma
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しかし今回 Merck との案件で投資した新薬MK-8189はまだ第2相臨床試験中で今まで投資してきた第3相臨床試験中の新薬以上に先行きが不透明です。第3相臨床試験中だった Otilimab は既に失敗しましたし、先日 Gantenerumab も第3相臨床試験を失敗したと発表されました(どちらもMorphoSys の案件で手に入れたロイヤルティです)。

これまでにも第2相臨床試験中の新薬のロイヤルティ自体は獲得したことがありましたが、あくまで他の新薬のロイヤルティのおまけとしてでした(MorphoSys との取引で手に入れた CPI-0209 など)。なので、第2相臨床試験中の新薬にピンポイントで投資するというのは初めてのチャレンジなのです。

上の図で確認すると第2相臨床試験中の新薬は約66%の確立で失敗する可能性があると言われています。

なので第2相臨床試験中の新薬(MK-8189)に投資するというのは、Royalty Pharma にとって過去に前例のない初めての試みであることに加え、今までよりも失敗するリスクが大きいことを意味します。

支援をした相手が大手製薬会社の Merck であること

次に2つ目のポイントです。支援をした相手が大手製薬会社の Merck であることが重要な理由として、Merckは資金提供またはRoyalty Pharma を必要としていないという点があがります。

今までのRoyalty Pharma のビジネスモデルは、将来有望な新薬候補を持っている小規模の製薬会社(バイオベンチャー)に対して資金提供するというものでした。

第3相臨床試験は非常に多額の資金が必要です。

(臨床試験の費用:CBO資料を基に作成)

しかし、小規模の製薬会社では多額の資金を用意することができません。

そこで、Royalty Pharma が助け舟を出すという仕組みでした。

有力な新薬候補に投資対象を絞っていましたし、なにより小規模の製薬会社側から資金を提供して欲しいという需要がありました。資金提供の需要があるということは、その分だけ Royalty Pharma にとって有利な条件を提示できる可能性を意味します。

このビジネスモデルこそ、 Jim Cramer 氏が Royalty Pharma を絶賛する理由でもあったのです。

「素晴らしい戦略だ。

薬が有望であると分かったのに、非常に多額の資金が必要な第3相臨床試験というハードルをバイオベンチャーが乗り切らないといけないタイミングで Royalty Pharma が登場する。

臨床試験には非常に多くの人を集めなければならず非常に多額の資金が必要なため、普通は大手製薬会社しかこの第3相臨床試験を乗り切ることができない。

Royalty Pharma みたいな会社に投資をするということは、経営陣たちの目利きに賭けているということになる。

そして、Royalty Pharma のポートフォリオ(新薬リスト)をみれば、彼らが大きな成功を収めていることは明らかだ。」

“That is a brilliant strategy.

Come in when the drugs prove themselves, but there is still one more incredibly expensive hurdle, phase III, and developers need cash, make jump.

Just only a huge pharma can pass this stage alone, because you got to recruit all these people for a trial, and that is a gigantic amount of capital.

With the company like this though, you’re betting on managements’ ability to pick winners.

When you look at Royalty Pharma’s portfolio, they clearly have the midas touch.”

Jim Cramer

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しかしMerck は大手製薬会社であり、資金提供を受けなければ新薬開発の第3相臨床試験を乗り切れないという経済状況ではありません。

2022年第3四半期の Merck の貸借対照表をみると、流動負債が約 $23 billion に対して流動資産が 約 $33 billion あり、そのうちの $11 billion が現金や現金類似品です。

引用元:Merck

つまり Merck は小規模の製薬会社と比較して、Royalty Pharma に対して資金援助を積極的に求めている立場ではないことを意味します。

言い換えると、Royalty Pharma は必ずしも必要とされている訳ではなく、本案件においては Royalty Pharma の立場が弱いことを意味します。

次のページでは Royalty Pharma が Merck と提携した理由について解説します。

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あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。