Merck にとってのメリット
では、資金繰りに困っていない大手製薬会社(ビッグファーマ)である Merck があえて Royalty Pharma と取引するメリットは何なのでしょうか?
それは、
- 製薬開発のリスクを分散することができる
- 資金を他の新薬開発に使用することができる
です。
製薬開発のリスクを分散することができる
たとえ大手製薬会社(ビッグファーマ)といえども、新薬開発は失敗する可能性が非常に高い行為です。だからこそ、大手製薬会社(ビッグファーマ)は有望な新薬を持っているバイオベンチャー(小規模の製薬会社)を買収して新薬のラインアップを増やすという方法を取るようになりました。これは以前紹介した Nurtec ODT の例も同じです。
そんな状況の中、新薬開発を失敗した時のダメージを最小限に抑える保険があるといわれたら魅力的に映るのではないでしょうか?
今回の Merck の案件で考えてみましょう。
まず一般的な新薬開発において、第2相臨床試験までで既に 約 $93 million ($28 million + $65 million) の費用が発生するとされています。そして、この段階で臨床試験を失敗してしまうと、この費用 $93 million は全て水の泡になってしまいます。
ここで、Royalty Pharmaの登場です。
今回の提携の案件では Royalty Pharma が Merck に $50 million を提供することが既に決定しています。
なのでたとえこの MK-8189 が失敗したとしても、Royalty Pharma と提携して$50 million 手に入れていたことで$93 million 全てを失うというリスクを回避することが可能です。
言い換えれば、Royalty Pharma と提携することで損失の約50% 近くを回避する保険をかけたとも考えることができます。
それだけではありません。Royalty Pharma は最初の $50 million に加えて今後追加で $375 million の支援をする可能性があり、トータルの投資額は $425 million にもなります。
一般的に1つの新薬を開発するための費用はその他で失敗した新薬開発の費用を合計して $1000 million ($1 billion) といわれており、今回 Royalty Pharma が Merck に提供する予定の$425 million というのは新薬開発費用の約40% にものぼります。
つまり第3相臨床試験までたどりついたのに最終的に失敗してしまった場合でも、Merck は損失を大きく軽減する効果を得られるのです。
資金を他の新薬開発に使用することができる
また、たとえ新薬開発が成功したとしてもRoyalty Pharma から資金を得るメリットが Merck にはあります。それは資金を他の新薬開発に使用することができるという点です。
MK-8189の第2相臨床試験の結果が良好で第3相臨床試験に突入するとなった場合、Royalty Pharma は追加で$375 million の資金提供をするかどうかを選択することができます。そして、注目すべき点は、この$375 million に関して Merck は自由に使い道を選んでよいというところです。
言い換えれば、Merck はこの$375 million を他の新薬開発に利用して、将来的な新薬候補の数を増やすという選択もできるのです。
失敗した時のダメージを抑制するための保険をかけつつ、将来的に有望になりそうな新薬開発に追加資金を導入するというメリットを、Royalty Pharma は提供しているのです。
次のページでは、MK-8189の案件に関する疑問について解説します。