統合失調症治療薬の開発の歴史
統合失調症の治療薬は抗精神病薬と呼ばれますが、この治療薬は偶然に発見されたという歴史があります。
CFTR という原因を解明し、そこから開発した Cystic Fibrosis の治療薬 Trikafta とは真逆ですね。

クロルプロマジンの発見
統合失調症治療薬(抗精神病薬)の開発は偶然から生まれました。
1950年代にフランスでアレルギーの治療薬として開発された薬があります。
その薬の名前はクロルプロマジン(Chlorpromazine)です。
このクロルプロマジンを手術の際に麻酔の併用薬として使用していたところ、偶然にも統合失調症の幻覚や妄想などの症状に効いてしまったのです。
つまり、なんかよく分からないけど統合失調症の症状に効いたから治療薬として使ってしまえという考え方です。
(参照:抗精神病薬の歴史、ジェネラリストのための向精神薬の使い方)
ドパミン(Dopamine) 仮説
その後、クロルプロマジン(Chlorpromazine) について詳しく調べてみると、「どうやらドパミン(Dopamine) という成分が関係する脳の領域に効果があるようだ」ということが分かりました。

そこから「ドパミン (Dopamine) の異常が統合失調症の原因である」という仮説が流行りはじめ、ドパミンをターゲットにした統合失調症の治療薬が次々に開発され始めました。
医療業界では一般的に定型抗精神病薬と呼ばれる治療薬の登場です。
(参照:抗精神病薬の歴史、ジェネラリストのための向精神薬の使い方)
副作用との闘い
最初にクロルプロマジンが発見されて、その後ハロペリドールなどの薬が次々に開発されました(定型抗精神病薬)。これらは全てドパミンが結合する “D2受容体” をターゲットにしたものです(D2受容体阻害薬)。
しかしある問題が浮上します。それは “強い副作用が出る” ということです。
ドパミンという物質は脳の中で色々な作用を担っています。なのでドパミンの働きをターゲットにした薬(D2受容体阻害薬)は影響を及ぼしたくない部分にまで副作用という形で影響を及ぼしました。
歩き出す際の最初の1歩が踏み出せなくなったり(すくみ足)、指が勝手に動く(手指振戦)などの症状(錐体外路症状)に加え、統合失調症の症状である、意欲が乏しくなるなどの症状(陰性症状)がより悪化したり、乳がんのリスクが高くなったり(高プロラクチン血症)するという、今までになかった副作用が出現しました。
下の動画は、抗精神病薬の内服によって出現した指や手が勝手に動く症状(手指振戦)の動画です。
統合失調症の症状を緩和しつつも副作用の程度や頻度を軽減したい。そこで作られるようになったのが、次の世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)です。
(参照:抗精神病薬の歴史、ジェネラリストのための向精神薬の使い方)
次の世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
最初に開発されたクロルプロマジンやハロペリドールなどの抗精神病薬(定型抗精神病薬)は “D2受容体” に影響を及ぼすもので、それが原因で様々な副作用が出現しました。
その後研究が進み”D2受容体” 以外の様々な脳の機能(受容体)に作用を及ぼすよう、追加機能を沢山付け足すようになりました。
すると、歩き出す際の最初の1歩が踏み出せなくなったり(すくみ足)、指が勝手に動く(手指振戦)などの症状(錐体外路症状)、意欲が乏しくなるなどの症状(陰性症状)の悪化、乳がんのリスクを高める(高プロラクチン血症)などの副作用を軽減できることが分かったのです。
新しい、次の世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)の登場です。
一般的に次の世代の抗精神病薬といわれるものには、リスペリドンやオランザピン、大塚製薬が開発したアリピプラゾールなどが当てはまります。
しかし、話はここで終わりではありません。
もともとは”D2受容体” に作用することで出現した副作用を抑えるために追加機能を加えたのに、今度はその追加機能による副作用が問題になってきたのです。
あっちを立てればこっちが立たずという感じですかね。
例えば、次の世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)では、眠気が強くでるし、体重が増えるし、糖尿病になるし、コレステロール値に異常もでるし。。。。などなど、新たな悩みが出現するようになったのです。
(参照:ジェネラリストのための向精神薬の使い方)
そこで次のステップとして、眠気や体重増加、糖尿病、脂質異常症の副作用をマイルドにできる抗精神病薬の開発が始まり、今回 Merck が開発している MK-8189 もこの段階の新薬なのです。
次のページでは Merck が MK-8189 を開発する目的について解説します。
これはつまり、どんな患者さんをターゲットに想定しているかにつながります。