Royalty Pharma

乳がん治療薬からみる Royalty Pharma (ロイヤルティファーマ)のすごさ

Trodelvy(トロデルヴィ)について

もともと乳がんは、3つの受容体(エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2 )の有無で分類しています。その3つの受容体全てが存在せず、予後が悪い乳がんをトリプルネガティブ乳がん(TNBC) と名付けています。

じゃあ、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)にあって、他の正常な細胞にはないタンパク質をターゲットにすればよいという発想で生まれたのがこの “Trodelvy(トロデルヴィ)” という薬です。

Trodelvyの構造

研究の結果、多くの乳癌には “Trop-2 (the human trophoblast cell-surface antigen 2)” と呼ばれるタンパク質が細胞の表面に存在することが分かりました。

そこで、この “Trop-2″ というタンパク質をターゲットにして開発されたのが、”Trodelvy” です。

(参照:The New England Journal of Medicine

実はこの “Trodelvy” 少し変わった薬で、2つの薬が合体しているのです。

引用元:National Cancer institute

乳がん細胞にあるTrop-2 というタンパク質にくっつくための部分(抗体:上図で緑)に抗がん剤の”SN-38″(上図で紫)がくっついた状態になっています。

このタンパク質にくっつく部分(抗体)に抗がん剤(SN-38) をくっつけるという点が、技術的に難しかったため今までこのタイプの薬はなかなか開発されてこなかったようです。

Trodelvy の仕組み

この “Trodelvy” の仕組みとしては、乳がん細胞に抗がん剤を狙い撃ちで届けるといった感じだと思います。

通常の抗がん剤は身体全ての細胞に行きわたってしまうため、がん細胞をやっつける前に正常な細胞が死んでしまうことが問題です。

しかしこのTrodelvy においては、トリプルネガティブ乳がん(TNBC) に抗がん剤を狙い撃ちで届けることができるため、より効果を期待できる点が特徴です。

どれくらい効果が期待できるかと言うと、通常の抗がん剤治療の2倍近く生存期間が延びるという結果が出ています。

(Trodelvy の無再発生存期間は4.8か月、生存期間は11.8か月。化学療法の無再発生存期間は1.7か月、生存期間は6.9か月)

(参照:The New England Journal of Medicine

残念ながら、トリプルネガティブ乳がん(TNBC) の患者さんのがんを完治させるための薬ではなく、依然患者さんの予後が非常に悪いことに変わりはありません。

しかし、過去に再発を繰り返して、幾度にもわたる化学療法でも進行を止められなかった患者さんという、かつては手の施しようがないとされていた人々に新しい選択肢を提示したのです。

この薬がいかに期待されていたかというのは、Trodelvy がFDA に承認されるまでの過程をみても明らかです。

Trodelvyの歴史

もともと Trodelvy は “Immunomedics (イミュノメディックス)社” が研究開発していました。

2018年

2018年に Royalty Pharma が “Trodelvy” の研究開発支援という名目で $250.0 million を Immunomedics に提供しました。この時点ではまだ第3相臨床試験中だったのですが、 Royalty Pharma の経営陣はこの薬の将来性に目を付けたのでしょう。

Royalty Pharma は提供した$250.0 million の見返りとして、$175.0 million 分はTrodelvy のロイヤルティ収入権として、そして残りの$75.0 million 分は Immunomedics の普通株として受け取りました。

2020年

その後第3相臨床試験が進み、Trodelvy の有効性を示すデータが少しずつ集まってきました。そして2020年4月、FDA はTrodelvy を迅速承認しました。この迅速承認というのは少し特殊な承認の形で、新薬の有効性を示す十分なデータが集まっていない状態でゴーサインを出すことを意味しています。

FDAが承認を急いだ理由はそう、トリプルネガティブ乳がん (TNBC) は予後が非常に悪いのに、有効な治療が存在しなかったからです。この迅速承認は、世の中がこの薬の登場を待ち望んでいることを反映していると同時に、後々データが集まって治療効果が薄いことが判明してしまった際は承認が取り消されることを意味しています。

ちなみにこの時評価の基準となったのは、”乳がんの大きさがどれだけ小さくなったか”です。

がんが小さくなったことは薬に反応していることが予想されますが、治療の一番の目的はがんを小さくすることではなくて、患者さんの生存期間を延ばすことです。

迅速承認を受けた2020年時点は、まだ生存期間が本当に延びるかは不明でした。

また2020年に起こったもう一つの出来事は、大手製薬会社のGilead 社が Immunomedics 社を買収しました。Trodelvy が将来有望であることを予想しての買収です。因みにこの買収があったことで、Royalty Pharma は大きな利益を手にしています。

2021年

その後研究データが蓄積され、Trodelvy がトリプルネガティブ乳がんの患者さんの生存期間を有意に延ばすことが確認されました。

そして2021年4月にFDA はTrodelvy を正式に承認しました。この時点での適応は過去に複数回の治療を受けても効果を期待できなかった転移性トリプルネガティブ乳がんです。

また同時に、FDA は治療抵抗性の転移性尿路癌に対しても、Trodelvy を迅速承認しました。

現在

その後もTrodelvy はMerck の持つ “Keytruda” という薬との併用が研究され、2022年には肺がん(非小細胞がん)への適応も研究され始めています。

また、2022年12月現在、トリプルネガティブ乳がん以外の乳がん(ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性)にも承認を申請しているところです。

ロイヤリティファーマの2022年第3四半期のカンファレンスコールの資料を見てみましょう。

引用元:Royalty Pharma

Trodelvy は新な適応の場を目指して、現在いくつもの第2、第3相臨床試験中であることが分かります。

新な適応が生まれれば、その分だけ薬の売り上げがさらに伸びることを意味しますし、同時にその薬の特許期間が延びることを意味します。

Trodelvy という薬は今後さらに売り上げが延びていく可能性に満ち溢れています。

次のページではビジネスの観点からTrodelvy を考えてみたいと思います。

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ABOUT ME
あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。