先日仕事の前に立ち寄った名古屋のMARUZENの洋書コーナーで在庫セールがあった。
たまたま通りかかったのだが、洋書コーナーの本棚の一角が全てセール対象となっていて、そこにある本はどれも税込みで550円という破格の値段だった。
普段は洋書を買いたくても、高くてなかなか買えないので、この日はクリスマスが早く来てくれた気分になった。
そして、その本棚の中にあったうちの一冊が「SHOE DOG by Phil Knight」だった。
今では誰でも一度は見たことのあるブランドの”NIKE(ナイキ)”。
この本はNIKEの創業者による自伝だ。
この本の翻訳版はBOOK OFFのビジネス書に行くと良く目に付くので、存在自体は以前から知っていた。
ただ、あえて買う気にはなれなかった。
どうせ何か読むなら洋書の原本で読んでみたいと思っていたし、そもそもビジネス書というものに少し抵抗を感じていたからだ。
私にとってビジネス書というと、
- 良い本だけど、理解するのがとてつもなく難しいか、
- 「私はこうやって億万長者になりました。私のサクセスストーリーってこんなにすごいんです!」といわんばかりの、ただの自慢話で終わる、全く読者のためにならない本
というイメージがあった。
なのでこの “SHOE DOG” をセール棚で見つけた時は、
「まぁ、安いし、前に見たことがある本だから、買ってみるか」
って位の軽い気持ちで購入した。
ただ、読み始めてみると、 著者の感じた胸の高まりや絶望感がとてもリアルに感じられ、ぐいぐいと中身に引き込まれてしまった。
読んでいてとても楽しめたし、とても勉強になって、まれにみる良書だと思ったので、その感想を記録したいと思う。
刺激を求める反逆者
自分がこの本に引き込まれた理由の一つは、自分も著者と同じく、「刺激を求める反逆者」的な要素を持っているからだと思う。
私自身、海外留学に憧れて、YMSを含めてイギリスに何度も行ったのも、「人生にもっと刺激が欲しい」、「今の日本の世の中に不満がある」という気持ちが原点だったと思う。
おそらくだが、多くのYMS経験者や、留学を希望する人にも少なからずこの傾向はあるのではないだろうか。
日本でずっと生活してきて、気が付いたらいつの間にか20歳を超えていた。
自分の人生なのだから、何か特別なことをしたい。
海外に飛び出す位、人生に刺激を求めている。
エネルギーが有り余っている。
だけど、具体的には何をしたらいいのか全く分からない。
何も分からない。
この境遇は、まさにこの著者が経験したものと同じである。
この本は、こんな「刺激を求める、1人の若者」からストーリーが始まるのだ。
何も分からない!
この本を読んで思ったのは、たとえ世界に名を馳せる大企業の創業者であっても、手探りの状況から始めたのだということだ。
1度切の人生。何か大きな、意味のあることをして、自分の人生を充実したものにしたい。しかし、何をしたら成功できるのか分からない。
ほとんどの人、特に海外に飛び出すような人たちは一度は考えたことがあるのではないだろうか。
実はこの本の著者も全く同じ経験をしていることが書かれている。
「何かをしたい、だけど方法が分からない」と考えている1人の20代の青年。
そんな彼が何も分からない状態で、まず一歩を踏み出してみる。
その一歩は次の一歩につながり、その後もどんどんと次につながっていく。
次第には、いくつもの困難に遭遇し、そのたびに「人生終わりかもしれない」と冷や汗をかく。
事前にどんな困難が襲ってくるか分かっていただろうか?
いいえ、全く。
どれもこれも予想もしない出来事ばかりだし、その対処方法も全く分からない状態。
それでも、一歩一歩自分の夢に向かって進んで行く著者の姿にはとても応援したくなったし、著者の喜びや悲しみ、絶望などが、まるで私自身の出来事のようにさえ思えた。
退屈の真逆
退屈という感情は誰しも一度は感じたことがあると思う。
退屈というのは、見方によってはとても平和であって、本当はとても幸福な状態なのかもしれない。
ただ、この本の著者は、退屈の真逆の人生を選んだ。
そこには、自分で自分の人生を選択していく姿が描かれている。
私自身、なぜイギリスのYMSに申し込んだのだろうか。
医師の世界では、大学を卒業した後、2つの研修が待ち受けている。
最初に訪れるのは初期研修の2年間。
そして初期研修の2年間の次にくるのが、後期研修と呼ばれる3年間。
世間で言われる使い物になる医師になるには、この合計5年間修業する必要があり、初期研修2年間だけでは、正直1人前と認められないし、就職先もかなり制限されてしまう。
日本で医師と働き始めた以上、本来はそのまま日本で働き続けるのが当たり前だし、そうすれば将来安定なのは間違いない。
給料も保証されているし、そもそも日本という国は、世界的にみればレベルの高い生活水準が保証されている誰もが世界中の人がうらやむ国なのだ。
先日、来日した海外のオリンピック選手が「日本で働きたい」と言って失踪したニュースが流れたが、海外の人がうらやむ位、日本で生活できるというのは恵まれたことなのだ。
それなのに、私はなぜ、初期研修2年間のすぐ後にYMSに応募したのか。
それは、自分の人生を自分で決めたいと思ったからだ。
私は人に言われるから勉強をしたり、仕事をするのは嫌だ。だって、すごく退屈に感じてしまうから、窮屈に感じてしまうから。
私は自分がやりたいことを、全て自分の責任で選んで、行動したい。
その最初の一歩がYMSへの応募だった。
もちろん、それによって大変なことや、辛いこと(一時期ロンドンでホームレスになったこともあった)など、色々と経験したが、それでも選択という自由の存在を存分に楽しむことができた。
この本を読むことで、著者の姿に、ロンドンにいた時の自分を投影せざるにいられなかった。
そして、これからもまだまだ自分で選択して、人生を切り開いていきたいと思った。
この本は、読んでいてとてもわくわくしただけではなく、自分も前に進みたいというエネルギーをくれた。
まとめ
- 自分の人生に刺激を求めた、1人の若者がNIKEというブランドを確立するまでのストーリー
- 例え成功した人でも、当時は分からないことだらけだった
- 退屈の真逆の人生を教えてくれる
文献
“SHOE DOG by PHIL KNIGHT”