CFTRとは
もう少しCFTRというタンパク質について詳しく解説します。
このタンパク質は、肺の中の細胞の表面に沢山あります。担っている機能は、浸透圧の力を利用して、肺の細胞の表面と空気が触れる場所に水を供給することです。
健常者ではこのCFTRが正常に機能するので肺の表面に水が供給されます(左の図)。なので肺に痰が溜まっても、水でふやけて咳で排出することができます。
cystic fibrosis の患者さんの場合はどうでしょうか?肺の表面がカラカラなので痰が乾いてネバネバしています(右の図)。そのため、うまく痰を外に出すことができません。結果的に、痰が空気の通り道をふさいでしまい呼吸できなくなります。また痰の中に沢山ばい菌が溜まることで肺炎を引き起こす原因となります。
イメージとしては、鼻水も水っぽい時は鼻をかめば出てきますが、乾いてカピカピになってしまうと、鼻をほじってもなかなか出てきませんよね?あれと同じです。
結局、肺に潤いを与えることができれば、cystic fibrosis の症状である、呼吸苦、咳、肺炎などに対して一気にまとめてアプローチすることができるのです。
CFTRが作られるまで
ところで、このCFTRというタンパク質はどこからやってくるのでしょうか?
これを解説するには、少々専門的な話が必要です。セントラルドグマと呼ばれる、細胞の中のDNAからタンパク質が作られるという概念を理解する必要があります。
少々難しい内容ですが、CFTRがどうやって作られるかが理解できると、trikafta、symdeko、ORKAMBI、kalydecoがそれぞれ何なのかすごく良く分かるようになります。
人間の身体は小さな細胞が集まってできています。これらの細胞全て(ただし赤血球を除く)に、核と呼ばれる袋が1つあり、その中にDNA(核酸)が保存されています。このDNAには沢山の情報が保存されていて、人体の設計図と言われています。
この図は1個の細胞のイメージですが、nucleusと書かれたオレンジの袋が核で、さらにその真ん中にある濃い赤色であるnucleolusにDNAが詰まってます。
このDNAの情報(遺伝子)をもとにして核のすぐ外側にある粗面小胞体(そめんしょうほうたい)と呼ばれる場所でタンパク質が合成されます(図の中でrough endoplasmic reticulumと書かれた濃いオレンジの袋です)。
この仕組みは身体を構成するどのタンパク質にも当てはまり、CFTRも同じです。そして、粗面小胞体で合成されたタンパク質(CFTR)は細胞の表面まで運ばれ、細胞の表面で仕事をするようになります。
CFTRのケースを見てみましょう。
まず、肺の細胞は空気と触れています。この細胞の1個1個にも核が存在していて、タンパク質(CFTR)をどんどんと合成しています。健常者の正常なCFTRは肺の細胞の表面にとどまり、正常な機能を果たすことで肺を潤すことができます。
しかしcystic fibrosis の患者の場合、CFTRが細胞表面で機能することができず、肺の表面が乾いてしまします。
図の左側が健常者の肺の細胞の表面で、潤っています。それに対して右側のcystic fibrosisの患者の肺の細胞の表面はよどんでいますね。乾いてネバネバした粘液が溜まっています。
なぜ異常なCFTRは細胞表面で機能することができないのでしょうか?その原因は2つあります。
次のページで CFTR が機能しない原因2つについて解説です。