Royalty Pharma

Royalty Pharma の新な試みーMerckとのコラボについてー前編

MK-8189に関する疑問

前のページでは Merck にとってのメリットについて紹介しましたが、カンファレンスコールに出たアナリスト達からはこんな疑問の声もあがりました。

  • MK-8189は既に何年も開発されているが、商品化された際に十分な長さの特許期間は残るだろうか?
  • そもそも Merck がこの案件に合意したのは、MK-8189 という新薬が成功しない可能性が高いことを Merck 側が認識しているからではないか?

これについて以下解説です。

MK-8189は既に何年も開発されているが、商品化された際に十分な長さの特許期間は残るだろうか?

2017年にはこのMK-8189 という新薬候補は既に第2相臨床試験を開始していました。

普通臨床試験を開始している段階で既に特許権の申請が完了していて、そこから数えて特許権が有効な期間が算出されます。

なので、2017年から数えて2022年現在で既に5年が経過しているのです。

このMK-8189 が最終的に第3相臨床試験をクリアするのはまだまだ先の話であり、その分この新薬が特許権の恩恵を受けることができる期間が短くなることを意味します。

これに関して、Royalty Pharma の Marshall Urist 氏が以下回答しています。

「特許権の期間についての質問ですね。知的財産権というのは、Royalty Pharma が扱うビジネスの中心的存在であり、リターンや特許権の期間に関しても私たちは注意しています。この新薬(MK-8189) が承認された後に魅力的な商品として十分な特許権の期間を持っていると我々は考えていますし、だからこそ我々と Merck が投資を継続すると思っていただいて問題ありません。」

“You asked about patent life. As you might imagine, IP diligence is in a really core to Royalty Pharma, an important part of what we do. So you can assume that we were comfortable that there is sufficient runway for, in terms of patent life for this to be a successful product commercially and to Merck to continue to invest in it post-approval.”

引用元:Royalty Pharma

特許権が持続する具体的な期間は明示されませんでしたが、とりあえず問題ないと思って良いと仰せでした。

そもそも Merck がこの案件に合意したのは、MK-8189 という新薬が成功しない可能性が高いことを Merck 側が認識しているからではないか?

前のページで説明した通り、Merck があえて Royalty Pharma と手を組むメリットとして、失敗した時のリスク回避があります。

そして、現実問題このMK-8189 は中々開発が進んでいないという事実があります(2017年に第2相臨床試験を行っていて、2022年時点でもまだ第2相臨床試験の段階)。

つまり、「Merck 自身はMK-8189 という新薬候補が成功するとはあまり思っていない。なので積極的に研究開発を行わないし、失敗する損失回避をするために Royalty Pharma と手を組んでいる」と捉えられても仕方がないのです。

これに対する Royalty Pharma 側は

  1. Merck 側には有望な新薬リストでのコラボを依頼した
  2. 今回の2段階の投資戦略が功を奏す

と説明しています。

Merck 側には有望な新薬リストでのコラボを依頼した

以下カンファレンスコールでの Pablo Legorreta氏の回答です。

「一つ大切なことがあります。我々が製薬会社を訪れて彼らに伝える、とても大切なこととして、「我々はあなたたちの新薬リストの中でもトップレベルの新薬とコラボしたいのであって、最低ランクの新薬候補ではない」ということです。そして、「今後5年、10年と長期に渡り共にあなたたちとビジネスを行っていくためには、今ここで勝利する必要がある、パートナーとして共に勝利する必要がある」と彼らに伝えます。なので、彼らの新薬リストの中でもトップレベルのものに絞る必要があり、最低ランクの新薬ではダメなのです。私たちは様々な要素を考慮して、最終的にこのプログラムが彼らの新薬リストの中でもトップレベルのものだという結論に達します。

“Now one key thing here is that when we go and talk to these companies, the very important thing we say to them is, we really want to be collaborating on your top three, top five, top ten, not the bottom of the list. And what we often say to them is for us to be working with you five or ten years from now, we have to sort of win here, win with you as your partner. So we need to be working on the top, your top programs and then partner with you on those and not the ones that sort of didn’t make the cut. So, and we go through great lens of understanding a lot of different things that really lead us to conclude that this is one of the top programs of this company and that’s what we often do with others.”

引用元:Royalty Pharma

つまり今回のMK-8189 についても、Merck の新薬候補リストの中でも将来性の高いもので提携したいという意思を Merck 側に伝えた、ということのようです。

今回の2段階の投資戦略が功を奏す

今回の Merck との案件の特徴は、MK-8189 の第2相臨床試験の結果を踏まえたうえで、$375 million の追加投資をするかどうかを判断するという特殊な構造があることです。

引用元:Royalty Pharma

実はこの構造自体、 Royalty Pharma にとってもメリットがあります。

まず第一に、最初から一気に$425 million を全て投資せずに比較的少額の投資 $50 million をすることで、Royalty Pharma 側も失敗した時の損失を抑えることが可能です。

そして第二に、第2相臨床試験の結果をみた上で追加の$375 million を投資するかを判断できるという選択権があります(第2相臨床試験の結果をみて投資をするというのは、Royalty Pharma が既に何度も行っている投資手段です)。

そして第三に、早い段階から資金提供することでMerck の新薬開発に割り込むことができました。おそらくですが第2相臨床試験の結果が良好であった場合、Merck は Royalty Pharma の協力は必要ないとして自社の資金で開発を進めていた可能性があります。

次のページでは、MK8189 の案件がもたらす意味について解説します。

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あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。