Royalty Pharma

Royalty Pharma の新な試みーMerckとのコラボについてー前編

Merck の案件から見る Royalty Pharma のビジネスへの期待

では結局、今回の Merck の案件を投資家としてどのように評価したら良いのでしょう?

これは利益を生まない無駄なリスクを背負ったネガティブな事例と捉えるべきなのか、それとも未来の成長に向けての一歩として評価するべきなのでしょうか?

これに関しては完全に個人的な意見となります。ただ、私は今回の案件は未来の成長に向けての一歩として大きく評価して良いと考えています。しかも、それはこの MK-8189 が成功するかどうかに関わらずです。

その理由は4つあります。

  1. Royalty Pharma の経営陣の売り上げを増やしていく決意がみられるから
  2. 依然、他の製薬会社と比較して効率的な研究開発を行っているから
  3. 現状に満足せず、大成功するための実験を行っているから
  4. 70/20/10の法則に近い状態だから

このうち、①と②は Warren Buffett 氏に大きな影響を与えたとされる Philip Fisher (フィリップ・フィッシャー)氏の考え方に基づいていて、③はAmazon の経営方針、④はGoogle の運営方針に基づいています。

Royalty Pharma の経営陣の売り上げを増やしていく決意がみられるから

Philip Fisher (フィリップ・フィッシャー)氏著の「株式投資で普通でない利益を得る」には成長株を探すための15のポイントが記載されていますが、そのなかのポイント 二 は次のように記載されています。

ポイント 二

その会社の経営陣は現在魅力のある製品ラインの成長性が衰えても、引き続き製品開発や製造過程改善を行って、可能な限り売上を増やしていく決意を持っているか

経営陣が、現状のままではほぼ間違いなく現在の市場での成長が限界に達するため、成長を維持するにはいずれ新たな市場開拓しなければならないことを認識しているかどうかということだ。

フィリップ・A・フィッシャー著、長尾慎太郎 監修、井田京子 訳、Pan Rolling 出版、p 108、p109

この Merck との案件は、Royalty Pharma にとって新しい試みです。そしてこれは大手製薬会社の研究開発費に介入するという新たな市場を開拓する試みと捉えることができます。

既存のロイヤルティを獲得したり、小規模の製薬会社に資金提供してロイヤルティを獲得しているだけで、Royalty Pharma はこれまで安定した良い成績を収めてきました。

なのにあえて多少リスクが高いと思われる行動をとった理由は、新しい市場を獲得して今後さらに売り上げを伸ばしていくことをRoyalty Pharma の経営陣が意識しているからだと私は感じました。

依然、他の製薬会社と比較して効率的な研究開発を行っているから

これも先程紹介したPhilip Fisher (フィリップ・フィッシャー)氏著の「株式投資で普通でない利益を得る」に記載されている15のポイントのうちの1つです。

ポイント 三とされている内容は以下の通りです。

ポイント 三

その会社は規模と比較して効率的な研究開発を行っているか

経営トップは、完成しても市場が小さすぎて利益が出ない製品の研究開発に巨額の資金を投じていないかどうか、常に警戒しておく必要がある。

市場調査部門が大がかりな調査を行うことで、技術的に成功してもほとんど採算がとれないプロジェクトと、幅広い市場に提供できて開発費の三倍の売り上げを上げるプロジェクトを見極めることができれば、株主にとってはその会社の研究員の価値を大きく押し上げることになる。

フィリップ・A・フィッシャー著、長尾慎太郎 監修、井田京子 訳、Pan Rolling 出版、p108、p 115

今回の Merk の件もそうですが、新薬が開発された際に大きな売り上げをあげ採算が取れるかという評価に関して、Royalty Pharma は優れています。

特に、MK-8189 が対象としているのは100人に1人罹患すると言われる統合失調症です。

成功すれば莫大な利益になることは間違いありません。

また、そもそも Royalty Pharma のビジネスモデルとして、通常の製薬会社より新薬開発のリスクを抑えれるという構造になっています。失敗するリスクが低い分、他者と比較して資金を効率的に研究開発に利用していると言えそうです。

(ちなみに今回は15のポイントのうち2つのみ紹介しましたが、他のポイントについても Royalty Pharma は成長株としての条件を数多く満たしています!)

現状に満足せず、大成功するための実験を行っているから

Amazon の創始者である Jeff Bezos 氏は 2015年の Amazon の株主への手紙でこう記しています。

大きな成功を収める者は、数多くの実験を行う

私たち(アマゾン)は失敗するための場所として世界で一番良い場所だと信じています(沢山練習しています!)、そして失敗と発明は切っても切り離せない関係にあります。何かを発明するためには実験する必要があり、事前に成功することが分かっているのは実験ではありません。多くの大きな組織は発明という考え方を受け入れますが、発明するために必要な数々の失敗を経験することに対しては乗り気ではありません。大きなリターンは常識外のことに賭けることで得られますが、だいたい常識というものは正しいのです。10%の確立で100倍のリターンを生む可能性があるのなら、毎回その賭けにのるべきなのです。それでもあなたは10回のうち9回は失敗するでしょう。

Big Winners Pay for Many Experiments

I believe we are the best place in the world to fail (we have plenty of practice!), and failure and invention are inseparable twins. To invent you have to experiment, and if you know in advance that it’s going to work, it’s not an experiment. Most large organizations embrace the idea of invention but are not willing to suffer the string of failed experiments necessary to get there. Outsized returns often come from betting against conventional wisdom, and conventional wisdom is usually right. Given a ten percent chance of a one hundred times payoff, you should take that bet every time. But you’re still going to be wrong nine times out of ten.

(Invent & Wander, Jeff Bezos, Harvard Business Review Press, p133~p135)

大きなリターンを得るために失敗は必要です。

MorphoSys に資金提供した見返りに受け取った、Otilimab や Gantenerumab は既に失敗に終わりました。そして、今回の MK-8189 も失敗に終わるかもしれません。

しかし、それでも大きなリターンを得るために成功するか分からない”実験”は続ける必要があります。

過去の例だと、2014年に $3.3 billion で投資した Cystic Fibrosis Franchise は現在では Royalty Pharma のドル箱となっています(しかし Trikafta が開発される数年前まではこの投資は失敗だったと考えられていました!)

そして最近では Nurtec ODT が大きなリターンを得た例としてありました。

この2つどちらとも、先行きが分からない状況での投資が功を奏した例です。

片頭痛治療薬からみるRoyalty Pharma (ロイヤリティファーマ)のすごさ *最終的な投資の決定は皆さんご自身の判断でお願いします。私は資格を持ったファイナンシャルアドバイザーではなく、あくまでも1人の素人投資...

今回の Merck の案件は第2相臨床試験中の新薬に投資するという新たな”実験” と考えることができます。失敗する可能性が高いとは思いますが、今後もこの”実験” を継続的に繰り返すことで、大きなリターンを得ることが期待できると信じています。

(しかも、Royalty Pharma の素敵なところは、このような”実験” を行っていても安定した業績を予想できるところですね!)

70/20/10の法則に近い状態だから

こちらはGoogole の CEO を務めた Eric Schmidt 氏が書いた本、”How Google Works” (邦題:私たちの働き方とマネジメント)に書かれている内容です

70/20/10

セルゲイ(Google の創始者)は上位100のリストを見返して、それを3つのカテゴリーに分けました。約70% のプロジェクトは Google の中心的なビジネスである検索と広告に関連したものに、そして約20% のプロジェクトは初期の成功を収めている新しいプロジェクトに、そして約10% は全く新しい内容のプロジェクトで非常にリスクが高いが、成功すれば非常に高いリターンを得られるものに。その後長い議論が交わされ、その結果70/20/10の法則が私たちの資源の振り分け方法の基準になりました。70% の資源を私たちの中心的なビジネスに、20% を初期段階のプロジェクトに、そして残りの10% を全く新しいプロジェクトに割くことに決めました。

70/20/10

Sergey examined the top- 100 list and put the projects in three different buckets. About 70 percent of the projects were related to the core businesses of search and search advertising, about 20 percent were related to emerging products that had achieved some early success, and about 10 percent involved completely new things that had a high risk of failure but a big payoff if successful. That started a lengthy discussion, the end result of which was that 70/20/10 became our rule for resource allocation: 70 percent of resources dedicated to the core business, 20 percent on emerging, and 10 percent on new.

How Google Works, Eric Schmidt & Jonathan Rosenberg, Grand Central Publishing, p222,p223

ちなみにこの出来事があったのは2002年の話で、その後Google がどのような発展を遂げたかは皆さんご存じだと思います。

数多くの実験を繰り返しつつも、あくまで本業に資本を一番多く集中させることの大切さが語られています。

では、Royalty Pharma の場合はどうでしょうか?

2022年の第3四半期の資料を覗いてみましょう。

引用元:Royalty Pharma

一番右の図を見ると、2022年の投下資金の振り分けは

  1. 68% が既に承認された薬剤への投資
  2. 32% が研究開発中の新薬への投資

となっていることが分かります。

言い換えれば、これまで長い間 Royalty Pharma のビジネスモデルの中心であった、既存の薬剤への投資に約7割の資本を割いていることが見て取れます。

この図を見て私は、Royalty Pharma という会社は新しいことにチャレンジしつつも、本業である承認済み薬剤への投資をしっかり行っているのだと安心することができました。

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ABOUT ME
あきふね
ハリーポッターの世界にあこがれた高校生が、大学時代と初期研修後にイギリスに留学。 10年以上どうしたら英語が上達できるか考え続け、合計約3年間イギリスに滞在。 ようやく自分なりの回答を見つけ、現在は次の海外進出に向けて準備中。 美容皮膚科医。 イギリス留学、英語について発信するのが何よりの楽しみ。