cystic fibrosisの新薬開発
まず、cystic fibrosisの新薬開発のデメリットですが、これは先ほどにも出てきた通り、trikafta の売り上げが下がる可能性があるということです。
では、逆に新薬を開発するメリットは何でしょうか?
利点として
- 既に開発済みの薬を使える
- 一つの市場(疾患)を独占し続けることができる
- 既に顧客(患者)を手に入れている
- cystic fibrosis に関する知識や、新薬開発のノウハウを持っている
等が挙げれます。
既に開発済みの薬を使える
再度先程の図です。
新薬と言ってもtezacaftorを使っていますし、deutivacaftorに関しても元々持っていた薬を少し変えただけです。
何も知らない0の段階から研究開発をする必要がありません。
ちなみに、新薬のtrikaftaに対抗する明らかなメリットとしては、1日に1回内服で足りるという点です。
trikaftaは1日に2回、合計3錠飲む必要があります。
trikaftaは朝にオレンジ色を2錠、夜に青色の錠剤を1錠飲む必要があります。
これが1日に1回になったら楽だよねというのが、現在開発されている新薬の明らかなメリットと思われます。
1つの市場(疾患)を独占し続けることができる
Ivacaftorという薬自体の特許権は2027年に消失することが予定されています。
もしVertexがcystic fibrosisの新薬開発を辞めてしまっていた場合、2027年で収入が途切れてしまっていました。
しかし、継続して研究したことでtrikafta が生まれ、その収益は2037年まで確保することができました。
新薬を開発し続けることで、市場(cystic fibrosis) を独占し続けることが可能となります。
過去に少し紹介した PayPal創始者著の”Zero to One” の中でも、高い収益を得られる良い企業というのは、市場を独占する企業だとされています。
「創造的な独占とは、全員に恩恵を与え、創造主にとっては持続的な利益をもたらす商品です。それに対して、競争とはだれにも利益をもたらさず、意味のある差別化もなく、生き残るのに必死になります。」
“Creative monopoly means new products that benefit everybody and sustainable profits for the creator. Competition means no profits for anybody, no meaningful differentiation, and a struggle for survival.”
(ZERO TO ONE, Peter Thiel, Virgin books, p35)
既に顧客(患者)を手に入れている
trikafta の販売網を確立しています。そのため、どこにどれだけお客様(患者)がいるかデータを持っています。ビジネスでいうと、既にマーケットリーサーチ済というところでしょうか。なので新薬の臨床試験を行う際も、既にデータを取ってある既存の患者さんにアプローチすることが可能です。全くコネクションがないところから時間と費用をかけて顧客(患者)を開拓する必要がありません。
cystic fibrosisに関する知識や新薬開発のノウハウを持っている
既にVertex にはcystic fibrosisに関する深い知識が溜まっています。失敗した薬に関するデータも沢山持っているでしょう。また、cystic fibrosis患者のどの遺伝子やタンパク質にアプローチしたら良いかも良く知っています。
アプローチするタンパク質はCFTRだったとしても、CFTRに異常をきたす原因となる遺伝子変異には様々な種類があります。
G551DやF508 del、splicing mutationsなど以外にも、非常に沢山の遺伝子変異がcystic fibrosisの原因となっています。
また、trikafta に有効性を示すのは、cystic fibrosis 患者の約90%であり、約10%の患者にはtrikaftaが効きません。また、一度失ってしまった肺機能を元通りに戻す効果はtrikaftaにありません。つまり、trikafta が素晴らしい薬であることに変わりないものの、まだまだcystic fibrosisの治療には改善の余地があります。
既に持っている知識、薬、顧客リストを使って新薬開発を行うことで、cystic fibrosis の治療という分野において他の製薬会社より優位に立つことができます。
次のページで、新薬開発をiPhoneに例えて考えてみます。